クラシック歌手が、ジャズ曲を素敵に歌う秘訣をおしえてください。
ここ最近、クラシックの演奏家の方とお仕事をすることが何度かありました。
そこで何度か「クラシック歌手でも、素敵にジャズの曲を演歌うことはできますか?」という質問を受けることがありました。
結論から言うと
もちろん、クラシックの演奏家の方でもジャズを素敵に演奏することができますし、ジャンルは関係ないです。
私の場合は歌手なので、この記事ではシンガーの話に特化したいと思います。
この記事では、クラシック歌手の方が、ジャズの曲を取り組まれる際に意識されると良いかな〜、と私が考えることを、あくまでジャズ歌手の視点からお話しできればと思います。
先に断っておきますが、この記事はクラシックの演奏家の方を批判したいわけではありませんし、もちろん敵対したいわけでもありません。むしろ仲良くしたい(^^)また、ここでの話はあくまで一例であって、もちろんすべての演奏家がそうというわけではありません。素晴らしい方もたくさんおられます。
私の経験上、こういった傾向の方が多いので、取り組まれる際に意識してみるとよいと思いますよ〜、という内容を、ジャズ畑の私が好き勝手に書いているだけです。もしもお気を悪くされる方がおられたら・・申し訳ないです。
でも、こんな弱小個人が書いた記事でお気を悪くされるということは、こういった傾向があるということなので・・・むにゃむにゃ・・以下省略。個人を攻撃したりという意図は一切ありません。
クラシック歌手の方がジャズの曲を取り組まれる際に、意識するとよいこと
- リズムスタイル、リズミックフィール
- リズムスタイルに合ったフレージング、歌い回し
- 音(声)の質感やビブラート
- アンサンブルの考え方
- カウント出し
- 曲のフォーム
- その場(会場)にあった歌い方
- マイクの使い方
- 楽譜の書き方
- 音の伸ばし方
1. リズムスタイル、リズミックフィールを明確に(スウィング、ボサノヴァ)
ジャズでよく演奏される曲のリズムスタイルは、スウィングかボサノヴァが多いです。(もちろん、サンバやシャッフルなど、他のリズムスタイルで演奏する場合もあります。)
それぞれのリズムスタイルは、もちろん全く違いますので、それぞれのリズムスタイルを正確に捉えて演奏することがとても重要です。
しかし、この違いを正確に認識できていない方も多いようです。(クラシック歌手の方だけでなく、初心者のジャズシンガーも同じくです。)一例を挙げてみましょう。
スウィングのリズムはこういった感じですね。
ボサノヴァのリズムはこういった感じです。
ここでリズムの話を詳しく始めてしまうととても長くなってしまうので、他の記事で書きたいと思いますが、リズムが苦手な方は、まずは身体全体でリズムを感じながら演奏するように心がけてみましょう。
より細かいリズミックフィール、リズムスタイルに関する話は、こちらの記事をご覧ください。
リズムスタイルの違い。スウィングとボサノヴァのリズム(近日公開)
ジャズはリズムが命です。
ジャズの演奏で最も苦労するのがリズム、特にSwingのリズムの感じ方だと思います。
Swingのリズムは独特で、元々日本の歌にはないリズムスタイルですから、私たちが難しく感じるのは当たり前です。まずはそのことを受け入れましょう。私たちの血にはそもそもSwingのリズムは流れていないのだ、と。笑。
そもそも血が流れていないのですから、まずは徹底的にお手本となる模範演奏を真似て、少しでもそのエッセンスを少しでも習得していけばよいのです。方法としては、正統派のジャズシンガーを徹底的に真似ることです。
これは余談になりますが・・・
ジャンル関係なく経験のあるシンガーほど、未経験の分野と直面した時にでも、自分の型や自分の既存テリトリーの中で歌おうとする傾向がある気がします。しかし、その既存のテリトリーや自分の型は、新しいものを習得する時には邪魔なものになりがちです。今までの経験や知識や技術は、ある程度新しいことができるようになってから、あとから付け足せばよいのでは?と私は考えます。
まずは予備知識を捨て、まっさらな状態から吸収していきたいと、私も日々思っています。
2. リズムスタイルに合ったフレージング(歌い回し)
上記のリズムスタイルの話と連動しますが、それぞれのリズムスタイルにあったフレージング、歌い回しをしていくことが重要です。
クラシックやJ-popとちがい、ジャズの場合は、同じ曲でも違うリズムスタイルで演奏することがよくあります。同じ曲でも、テンポが全く違うなんていうことも場合も普通です。
こちらはSwingのリズムスタイルです。
こちらはBossa Novaのリズムスタイルです。
こちらはSlow Jazz Funkのリズムスタイルです。
これがまさに、それぞれのスタイルに合わせた歌い回し、フレージングです。こんな感じでリズムスタイルに合わせて歌い分けることができないと、バンドと演奏が噛み合わず、チグハグな演奏になってしまいます。
個々のフレージングと、曲全体の両方を捉えましょう。
先ほどお話しした、細かいフレージングを完全コピーすることはとても大事です。ですが、細部ばかりに目が行きすぎて、大きな流れをうまく捉えられなくなってしまっては本末転倒です。
最近はYouTube等でもライブ映像を簡単に見ることができますので、実際にシンガーたちがどのように身体を動かしながら、曲のリズムを捉えているかにも注目してみましょう。
Ella Fitzgerald and Duke Ellington “It Don’t Mean A Thing (If It Ain’t Got That Swing)”
Sarah Vaughan – September In The Rain (Live from Sweden)
Jane Monheit – Cheek to Cheek (Live in Concert, Germany 2003)
3. 音(声)の質感やビブラートのコントロールに注目しましょう
声の音色や質感にも、注意が必要です。
クラシックの歌い方を、そのままジャズの曲に当てはめても、うまくフィットしません。
自分が歌う曲の雰囲気やテイストと、自分の声質や音色の特徴を鑑みて、どういったレパートリーだと自分の良さを発揮できるのか?自分が演奏してみたい曲に、自分の声はちゃんとフィットしているのか?フィットした歌い方ができているのか?ということをしっかりと吟味していくと良いですね。
必ずしもスモーキーな声がジャズに合うわけではありません。
ちなみに、ジャズらしい歌声、というと少しスモーキーな、しわがれた声を想像される方も多いかと思いますが、必ずしもジャズで求められる声がそういった声とは限りません。
むしろ私自身の場合は、スモーキーな声とは真逆の澄んだクリアな声を特徴としていますYouTubeの音源などを聞いていただいたらよくわかるかと思います。
こういった声を特徴としている私も、ジャズを専門としています。そして、私には私に合ったジャズの歌い方があると思っています。
一例を挙げてみると、私の声には泥臭い感じのブルースの歌い方は合わないですし、私自身も苦手意識があります。(もちろん一応プロとして、演奏できないわけではないですが)、ブルージーな曲ばかりのセットリストでは、自分の声の良さは表現できないと思っています。
自分の声の良いところと、曲自体の美しさが、上手く交わる点を探していきたいですね。
ビブラートのかけすぎに注意!
クラシックシンガーの方はビブラートが強すぎる傾向があります。ジャズの演奏ではビブラートほとんど使いません。フレーズの最後に多少つける程度です。
ビブラートが深すぎたり大きすぎたりすると、どうしても演歌調や民謡調の歌い方になりやすく、ジャズらしい雰囲気を出せなくなります。また、過度なビブラートは悪目立ちをしてしまいます。
以前、レッスンにお見えになったクラシック歌手の歌を聴かせていただきましたが、ビブラートをもっと減らしましょうとお話をしたら、「ビブラートかけていないつもりなんですけど・・」返されました。
いやいやいやいや、めちゃくちゃかかっていますよー。笑。かかりすぎー!ビブラートをかけることが日常すぎて、かかっていることにも気づかなくなっていたのかと思います。
ジャズの演奏では、ほぼ必ずマイクを使用します。マイクを使うということは、音響機材を使うと言うことですね。
音響機材(ミキサー)にはリバーブなどの残響を足したりするようなエフェクトがあります。つまり、自分で大きなビブラートをかけなくても、マイクを使用することで自然に残響の処理がされます。
そのため、クラシックの演奏をするときと同じように歌ってしまうと、ビブラートがとても邪魔に感じますので気をつけてくださいね。
4. アンサンブルの考え方
アメリカにいた時はあまり感じなかったのですが、日本でクラシック出身の演奏家の方とお話をしていて1番のギャップを感じるところは、アンサンブル、共演者の捉え方です。
私が出会ったクラシックを主戦場にされている歌手の方たちは、ソリストと伴奏者と考える方が多いように感じます。(もちろん全ての方がそうと言うわけではありません。)
誤解を恐れずに言うと、私が出会った長いことソリストとして活躍されているような有名な方の場合、自分が主役になることに慣れ(すぎ)ている傾向があるように私は感じました。これはアンサンブルの考え方の違いかもしれませんが、ここについては、私は強い違和感を覚えます。
例えば、歌手とピアニストの2人編成の場合で考えてみましょう。
ジャズの場合はソリストと伴奏者という考えはなく、基本的には対等な立場で演奏を聴き合いながら進めていきます。ピアニストはボーカリストの歌い回しやフレージングを聴きながら演奏内容を自在に変化させていきますし、そのピアニストの演奏を聴きながら、ボーカリストは歌い回しを変化させていくといった、お互いの化学反応を感じ合いながら演奏は進んでいきます。
ジャズの演奏の場合、同じ演奏は二度とない。
ジャズの演奏の場合は、決められた伴奏の形式があるわけではなく、その都度アプローチが変わりますから、その時の空気感を正確にキャッチするには、演奏家同士が対等な立場で演奏に向き合わないと、そもそも演奏ができないのです。
受け身の演奏ではジャズは演奏できない。
ピアニストも伴奏者として決められたことをこなしているだけでは務まりませんし、もちろんそれは歌手も同じです。相手の音を常に聴き、その演奏に反応しながら高めていくことを心がけましょう。
5. テンポ出し、カウント出しにも慣れておきましょう。
クラシックとジャズで、大きく違う所としては、テンポ出し、カウント出しの部分ですね。
アインザッツ、呼吸で演奏がスタートする場合ももちろんありますが、ジャズの場合Rubato(ルバート)で歌う以外は、基本的にはカウントを出して演奏がスタートします。
自分自身で「1、2、1234」とカウントを出せる場合は、ご自身で出されるのが一番良いと思いますが、難しい場合は事前に楽譜にテンポとリズムのスタイルを記入しておき、ドラマーなど、共演者にカウントを出してもらうのが良いかもしれません。
カウント出しのコツ(別記事近日公開)
6. 曲のフォームはしっかり覚えましょう
ジャズの演奏は事前に決まってることと、その場で進めながら決めていくことの両方の要素があります。
楽譜もクラシックに比べるとかなり簡易なものですし、演奏者の裁量に任せられる部分も多いです。そのため、全体の中でいまどこを演奏しているのか?ということを常に把握できるように、曲の流れを徹底的に頭と身体に叩き込むことが大切です。
しっかり耳を使って演奏をしないと、どこを演奏しているのかわからなくなります。
皆さんもご存知の通りジャズは即興演奏がその大半を占めます。そのため、イントロ1つをとっても同じイントロを弾いてもらえるということはありません。
もちろんアドリブが全く同じと言う事はあり得ませんし、毎回違う演奏というのが当たり前です。そのため、今曲のどのあたりを演奏しているのかと言うことを耳を使って常に把握していなくてはいけません。
ジャズを初めて演奏する方などは、小節数を頭の中で考えたり頭の中でメロディーを口ずさんでいたりと、今どこをやっているのかということを把握する癖をつけましょう。
しかしこのやり方(小節数を数えたり頭の中でメロディを口ずさんだり・・)をやっている間は、共演者のアドリブを楽しむことができませんので、本質的な解決策ではありません。
あくまでコードの動きを頭の中でいつも鳴らせるような位、曲を聴き込んだりピアノを弾きながら歌ってみるというのも良いでしょう。
7. in tempoで演奏するなら、テンポは一定に。勝手にテンポを変えない!
クラシックの歌手の方の伴奏をしていてよくあるのが、こんなことです。
in tempo(インテンポ:一定のテンポでの演奏)で演奏すると言っていたはずなのに、突然曲の途中で勝手に拍を伸ばしてしまったり、突然テンポがゆっくりになったり早くなったりとストレッチしてしまう傾向が強いです。
それでは共演者が困ってしまいますよ。「え?このテンポで歌うって、さっき言ってなかった?」と。
足並みをそろえる中で互いを聴き合い、演奏が発展していくのです。
もちろん、Rubato(ルバート:旋律を奏でている人のフレージングに寄り添う)の歌い方もあります。その場合は、もちろん速くなったり遅くなったりするわけですが、それはあらかじめそういう歌い方をするとわかっているので問題ありません。
先ほどもお話しした通りジャズはアンサンブルの音楽ですから、自分勝手にテンポを変えてはいけません。しっかりとリズムスタイルに合わせて歌いましょう。
その場(会場)にあった歌い方をしましょう
演奏する会場の広さも、考慮しなくてはいけません。
30人ぐらいの小さなライブハウスなのに、1000人ぐらいのキャパシティのコンサートホールで歌うような歌い方では、観客の心をつかむことはできないでしょう。
クラシック歌手の方のレッスンをすると、とにかく歌い上げる傾向の方が多いように感じます。(もちろん全員ではありません。)あまりにも歌い上げてしまうと、マイクを使う意味もなくなってしまいますし、他の楽器との調和も取れなくなってしまいます。小さな会場なら尚更です。
マイクを使うことにも慣れましょう
ジャズの演奏では基本的にマイクを使用します。
クラシックのシンガーの方は、マイクを使わないシーンが多いと思いますので、全般的に声量が大きい傾向があります。
また、マイクを使うことに慣れていない方は、歌っている間にマイクの位置がずれてしまう方も多いです。意外と重たいですから。
マイクとは一定の距離を保って演奏をしないと効果的に使用できません。鏡などで見ながら自分の歌い姿を確認しましょう。
楽譜の書き方
ジャズの演奏で必要な楽譜はクラシックの演奏の楽譜とは全く異なります。
必要なものは1段で書かれたメロディー譜です。この楽譜にはメロディー、コード、必要に応じてイントロとエンディングなどが書かれています。場合によっては歌詞を書いておくのも良いでしょう。
一段の楽譜とはこんな楽譜ですね。
時々ピアノ伴奏が書かれた3段の楽譜を持って来られる方がおられますが、これはジャズの演奏の場合はNGです。楽譜の枚数が10枚とかすごく長くなり演奏に支障をきたしますし、場合によってはそういった楽譜にはコードが書かれていないことがあります。
ジャズの演奏ではコードが書かれていない楽譜は使い物になりません。必ず1段のメロディー譜を準備するようにしましょう。
ジャズの演奏に慣れていない方は、イントロとエンディングもあらかじめ決めて書いておく方が良いでしょう。その場で柔軟に対応できる場合は書いてなくても大丈夫ですが、ジャズの演奏の経験が少ない方や、イントロからうまくテーマに入れないなど、心配事項がある場合は事前に決めて楽譜に書いておく方が安心です。
またrit.など、テンポを変えたり何か特別な指示がある場合は、記号も記載しておくと良いでしょう。いずれにしてもぱっと見てすぐに弾ける状態が理想ですね。
私の生徒さんの中には、楽譜の添削をしてほしいとご依頼をいただく方もいらっしゃいます。その他、3段譜しか持っていないので1段のメロディー譜に書き換えてほしいというご依頼もあります。ご希望の方はお気軽にお問い合わせ下さいね。
音をどれだけ伸ばすかを考えてみましょう
クラシック歌手の多くは、余韻が残ることをよしとすることが多いように感じますが、ジャズの演奏では、余韻を残しすぎると次のリズムが不明瞭になり、正確なリズムスタイル、リズミックフィールが表現できなくなります。
例えばジャズピアノの場合、曲中で1度もペダルを踏まないこともよくあるんですね。それは自分が表現したいリズムやテイスト、テクスチャ、フレージングなどをしっかりと表現したいから。
ピアノのペダルをずっと踏みっぱなしではこれらが不明瞭になります。歌でもおなじですが、各フレーズをどこまで伸ばして、どこで切るのか、というのを意識しながら歌うと、リズムにタイトに演奏できるようになります。
あれやこれや言いましたが、互いに理解を深めて学びましょう
結論から言うと、それぞれの音楽のジャンルにはそれぞれのルールや様式美がありますので、そういったものをきちんとリスペクトした演奏を行いましょうね!ということですね。
ジャズの演奏家はあーだこーだ、クラシックの演奏家はあーだこーだ、と言う話は、結局お互いへのリスペクトがないからなんですよね。
お互いの様式美や形式美、スタイルなどを理解し尊重した上で、新しいことにトライするなら、まずはその世界のルールに則ってみる。自己流はそのあと。それだけです。
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